じつは、この鳩山論文で面白い部分は、「ニューヨーク・タイムズ」への転載にあたって削除された、ドメスティックな文脈のほうにある。*2『VOICE』に掲載された原文を読む限り、鳩山の思考や行動は、基本的に単純な二項対立である。そのときに彼の頭のなかにある対抗軸は、いわゆる「吉田茂路線」である。たとえば『VOICE』の論文で鳩山自身、吉田茂と鳩山一郎を次のように対比している。
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鳩山一郎は、一方で勢いを増す社共両党に対抗しつつ、他方で官僚派吉田政権を打ち倒し、党人派鳩山政権を打ち立てる旗印として「友愛」を掲げたのである。彼の筆になる『友愛青年同志会綱領』(昭和28年)はその端的な表明だった。
「われわれは自由主義の旗のもとに友愛革命に挺身し、左右両翼の極端なる思想を排除して、健全明朗なる民主社会の実現と自主独立の文化国家の建設に邁進する」
彼の「友愛」の理念は、戦後保守政党の底流に脈々として生きつづけた。60年安保を経て、自民党は労使協調政策に大きく舵を切り、それが日本の高度経済成長を支える基礎となった。その象徴が昭和40年(1965年)に綱領的文書として作成された『自民党基本憲章』である。
その第1章は「人間の尊重」と題され、「人間はその存在が尊いのであり、つねにそれ自体が目的であり、決して手段であってはならない」と記されている。労働運動との融和を謳った『自民党労働憲章』にも同様の表現がある。明らかに、カレルギーの著書からの引用であり、鳩山一郎の友愛論に影響を受けたものだろう。この二つの憲章は、鳩山、石橋内閣の樹立に貢献し、池田内閣労相として日本に労使協調路線を確立した石田博英によって起草されたものである。
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吉田茂=官僚派VS鳩山一郎=党人派、という対比から、鳩山の官僚に対する厳しい発言の理由がわかる。外交路線においても、吉田茂が親英米派なのに対して鳩山一郎は大陸派、つまり親ロシア・親中国派だ。そして三つ目が「労使協調路線」。このような鳩山由紀夫の「政治理念」が、旧田中派と旧社会党と市民派の寄り合い所帯であるいまの民主党にとって、きわめて受けいれやすいものであることがよくわかる。
でも、いまから45年近く前の「あるべき自民党への回帰」という発想が、現在の日本にとって、あるいは今後の日本にとって有効だとは、私にはとても思えない。ドメスティックな文脈でしか理解できないこのような部分が、「ニューヨーク・タイムズ」への転載にあたっては削除されたのは当然である。「麻生」対「鳩山」による今回の選挙は、どちらの保守政党にも彼らのような三世政治家に代わる指導者がいない、ということもふくめて、過去の亡霊同士が戦っているような不毛さを感じるが、そもそも設定されているアジェンダがきわめて旧いように思う。